「コクリコ坂から」

渋谷のTOHOシネマズで「コクリコ坂から」を観る。なんとも贅沢な映画で、スタジオジブリでなければそもそも企画すら通らないだろうと思う。とても気分の良い映画で、楽しい二時間弱だった。


私だったら、この薄っぺらなストーリーに命を吹き込み、一級の位置まで持っていかなければならないとすれば、途方にくれるだろうと思う。それを、きちんとやり遂げるのがまさしく「プロの仕事」ということで、そのことにほとんど感動していた。おそらく絵の力だろうと思う。本当にすばらしい。


作品として高い点数はあげられないと思う。ただ、一日の2時間を豊かに過ごすための映画としてはとても良く、「超大作」やら「文芸作品」やら「カルト的な」ものをもう全然求めていない私にとっては、こういう刺激が強くなく、「襲ってくる」というよりは「寄り添う」ような作品の方が親しみやすい。


作品の水準としては、今高い評価を受けている道尾秀介辻村深月といった、「ただ読んでいて気分がいいだけ」の高い技術を持った作家たちの作品に並べて、遜色ないと思う。ということは、「宮崎アニメ」の後に来る「今風のジブリ」の最初の作品としては、なかなか良いスタートを切ったのではないかな。


宮崎駿が作る、美しいキメラのような作品を多くの人が待ち望んでいるのだけれど、まぁこういう誰が観ても分かる、カップルで見て「ハッピーエンドなんだー」とか「空ちゃんかわいかったよねー」とか言える映画も良いんじゃないかと私は思うのだが、どうだろうか。


しかし、足を組んで目尻を拭きながらスクリーンを観ていたのだが、この宮崎吾朗という人は本当にお父さんの作品が好きなんだろうなと思った。全編がそのオマージュに見えるほどだ。もしかしたら、自分の物語に、思い出し思い出しお父さんの使った「手」をあてはめていったのかもしれない。


そんな感想を持つほど、宮崎駿の呪縛は強い。それは、観ているこちらの方にもあるんだろう。オレ、宮崎アニメ好きだもんなー。困ったもんだ。