いつかこうへいに

中学生のころ、私のヒーローは、つかこうへいと山本夏彦星新一だった。


「裏が白ければメモ用紙に使えんのに」と思うような紙の束の中から、その三人の本を選び取って棚に並べた。
まぁ、みんな死んだ。


『娘にかたる祖国』は、控えめに言って十回くらい読んだと思う。
もちろん、薄くて活字が大きくて行間がすかすかだったからだが、何回読んでも面白かったからだ。
自室の窓際で、ページをめくっている自分の姿を、思い出すことができる。


長じて、舞台を何度か観に行った。
問題なく面白かったけれど、熱狂するにはいたらなかった。
どちらが良い悪いではなく、私のヒーローは活字の向こう側にいるべきなんだろうと思う。
私は自分が「本の子ども」だとは思わないけれど、印刷された紙の束が自分を支えていたことが、確かにあると思う。


今、私の本棚にはつかこうへいも山本夏彦星新一も刺さっていない。
単純に、自分の棚に刺さっている本が全部売り物だからで、そういった人たちの本は取り扱っていないからだ。
つかこうへいは、今が旬だろうからちゃんと持ってても良かったかもしれない。


実は一つ夢があって、私は自分の本棚が一基だけでいいから欲しい。
そこに自分が好きな本を並べてみたい。
この本でぎゅうぎゅうの部屋の中に、「自分の本」がないのは少しさみしい気がしない?


その際に、実はつかこうへいも山本夏彦星新一も、一冊も棚に入らないような気がするのだけれど、多分そういった人たちがいるんだろうと思う。


どこにだ。「棚の向こう側」にか。あほらし。


全然全然な感じだが、ようするにヒーローはヒーロなのだ。
私のヒーローは活字の向こう側にいて、シニカルで、困った時に食べることもできないアンパンマン以下の存在だけれど、
まぁ確かにいたのだ。確かに。


繰り返しになるけど、みんな死んだ。手は合わせない。いつかそこに行く。