「蛍」(麻耶雄嵩)幻冬舎 2004年

tanakadaishi2008-05-07



「蛍」だって読んだよ。
麻耶雄嵩は久しぶりだったよ。





新本格ミステリとトリックの果てにみえるもの」、という卒業論文を後輩からいただいた、という話は以前した通りです。
それの副題としてあったのが、先日ぐだぐだと書いた『イニシエーション・ラブ』と、今回読んだ『蛍』でした。
随分と間が開いてしまったわけですが、忘れていたわけではありません。ただ、字を読むと眠くなってしまうので、なかなか読み終えることができないだけなのです。
で、先日の『イニシエーション・ラブ』はミステリーとして今一つ気に入らなかった私なのですが、今回の『蛍』はとても良かったです。
これが私の知る「ミステリーのある風景」であり、かつて私が愛していた「ミステリーとしての何か」が成分多く含有した作品だと断言できます。


京都の山間部に佇む黒い屋敷、「ファイアフライ館」。そこに、オカルトサークルに所属する6人の学生がやってくる。
そこはかつて6人もの人間が惨殺されたいわくつきの屋敷で、そこで肝試しをしようという按排である。
その屋敷の所有者はそのサークルのOBで、廃墟同然だったその建物を買い取り、以前と寸分の狂いなく再生しようという酔狂な人間。
ただならぬ前歴と雰囲気を湛えるその屋敷で明かされる、かつての持ち主であった天才音楽家の狂気。
そして、かつてこのサークルでも、未だ逮捕されていない殺人鬼の被害者が存在したのであった。


日本に無理やり移築された洋館、不自然な会話を繰り広げる大学生、そんなわけあるかと言いたくなる人間関係。
張られた伏線、大げさな道具立て、色とりどりのトリック、全てが愛おしい。
もちろん、巧拙は重要です。斬新さだって、高く評価されるべきものでしょう。
でもね、結局日本人が日本人であるように、ミステリーはあくまでミステリーらしくあって欲しいと、私は思っています。
(もちろん、それはあくまで「私が考えるミステリーらしさ」なんですけどね。まぁ、趣味に関しては頭固くてもいいんじゃないでしょうか)
イニシエーション・ラブ』も『蛍』も、私は両方とも高く評価していい作品だとは思っているのですが、どちらを評価するかと言えば実は『イニシエーション・ラブ』の方を高く評価するわけなんですが、それでも心の内では高々と『蛍』に軍配を上げるわけです。
いやもう理由は単純。「だって好きだから」


狂気の天才音楽家が作った、真っ黒なレンガ屋敷。孤立した洋館で繰り広げられる殺人事件と、半年前に現れた殺人鬼の影。館モノで陸の孤島、ほんと「ど真ん中」な作品です。
そして、仰天のラスト。やはり、この人はそうじゃなくちゃいけないと、ゲラゲラ笑いながら思わず膝を叩きました。
その人らしさ、というのは無くならないものなんですね。割と小さくまとまったラストだったので物足りなく思っていたのですが、やっぱり最後にやってくれました。ありがとう。
最近、ミステリーなんて読む機会が減っていて、そして読めば洗練されて良く出来た読みやすい話ばかりで、正直辟易していました。
そんな閉塞感を吹き飛ばしてくれた、そんな感じがしました。





まぁ、なんか「昔、遊んだサウンドノベルみたいだな」と思ったのは内緒なんですけど。