安請け合い(1)

tanakadaishi2008-04-10

イニシエーション・ラブ」を読んだよ。
あぁ、なるほどと思ったよ。
そういえば、この人の本を読むのは「Jの神話」以来だなーと思い出したよ。





(SideA)
時代は1986年、「男女七人夏物語」のあの頃。
大竹しのぶ明石屋さんまはまだ離婚前、というよりまだ結婚前で、国鉄がE電をスルーしてJRになり、テレフォンカードともに公衆電話はまだ健在で、オレなんかはまだ小学生だったりしたあの頃。
そんな時代の空気を散りばめながら、「マユ」と「たっくん」の恋愛模様が淡々と綴られていきます。
出会って、すれ違い、結ばれて、またすれ違い、最後にまた結ばれる。
世界のありとあらゆる場所で繰り返されている出来事。


この話では、全然「特筆すべき出来事」は起こりません。
主人公が変な薬を飲まされて子どもになったり、人肉嗜好がある天才博士が監禁されていたり、事件は会議室で起こってるわけじゃなかったり、超美人の売れないマジシャンと物理学者がお互いののしりあったり。
そういうこととは全く無縁で、「マユとたっくん」は手をつないだり、イチャイチャしたり、時には便秘の手術で入院したりしながら、誰にでも起こりうる/起こりえたことを積み重ねて、ラストシーンを迎えることになります。


読んでいて思ったのですが、この人は妙に生々しいというか、なまめかしいというか、変な表現力がありますね。
会話文なんかは読んでると圧倒的に不自然な気がするのですが、それを覆い隠して余る力があると思います。
そういうところが、なんというか「普通の人の怖さ」みたいなものを書くのにピッタリで、私は最後まで実に楽しんで読みました。
腰巻には、
「評判通りの仰天作。
 必ず二回読みたくなる小説などそうそうあるものじゃない」
とあるのですが、まぁそこまでのものでも無いかなとは思ったんですけどね。
それでも、一風変わった物語を探している人には、お薦めできます。