ただ、それだけのこと

えーと、久しぶりに何か書こうと思って机の前に座ったのですが、
なんか忘れますね。やり方、というか書き方。
まぁ、とりあえず一生懸命やってみます。時間があったら読んでみてください。





明け方の空の色というのは、普通に生活していると案外目にしないものなのだけれど、長距離トラックの運転手さんにとっては見慣れた景色なのだろうなぁと思ったわけです。
なんでこんなことを唐突に書いたかというと、つい最近明け方の空を見上げる機会があったので。
その時私はたくさんのトラックに囲まれて、その中に一人でポツンと立って、ソフトクリームを舐めていました。
朝の四時半に舐めるソフトクリームは、乾いた喉に涼しくて悪くない感じでした。
ただ、気温が9度とかだったもので、急激に体が冷えていくのには少し困りましたけど。


私は、中古の本を売ることをなりわいにしているわけなんですが、ついこの前大阪まで本を売りに行く機会がありまして。
お寺の境内で本を並べて、文庫本なんかをお客さんに買ってもらいました。(とても、楽しい経験でした)
いいところです、大阪。おいしいし。
まぁそのことは置いておいて、私は関東の人間なもので、大阪でそういうことをやるためには荷物を運ばなければなりません。
そこで登場するのが、いつも私がお世話になりっぱなしの方で、その人がいずこからか2トントラックを調達して来て、私とその人の荷物を載せて大阪へと出かけることとなり、今回もやはりお世話になりっぱなしという感じ。
新幹線に乗りさえすれば2時間少々の大阪ですが、荷物満載のトラックで行くとなればそう簡単な話ではありません。
えっちらおっちら、8時間かけて中古の本を運びました。
深夜2時に出発して、到着が10時くらいだったでしょうか。まぁ、「ごくろうさまです」という感じでしょうけど、実際のところは行きはいいんです。まだ元気だし。
ホントにご苦労なのは帰り道なんですよねー。


少し自業自得の話をすると、その人と私は同業者なんですが飲み友達でもあり、それも大いに飲み友達なわけです。
そんな二人がわざわざ大阪まで本を売りに行くのは、「お金儲け」というよりは、趣味と実益を兼ねた旅行、という方がより正確な感じがします。というか、かなり趣味寄りというか。実際、その人は現地の人に「売れてまっか」と聞かれた時に、「売り上げのことは気にしないんです」と即答して笑われていました。(私はその人のそういうところが大好きですけど、一般常識としてはどうなんでしょうか)
で、大阪にいたのは6日間、宿泊先は新世界のすぐそばにあるビジネスホテルでした。通天閣のすぐそば、と言えば通りがいいでしょうか。その近辺は、飲み屋がそれこそ文字通りひしめきあっており、ということは仕事の間以外は二人で酒を飲みっぱなしというなります。なるんです。なってしまうんです。仕方がないんです。
蜜蜂が美しい花の色に誘われて蜜を求めてその中にもぐりこんでいくように。
小汚い立ち飲み屋の雰囲気に誘われて、我々はもぐりこんでしまう。
なんか、そうしないと負けのような気がするんですね。いや、そうしても負けなような気もするんですが。
ということは、どちらにしても負けなわけで、勝ち目のない勝負を強いられているわけですね。なるほど。
おまけに、売り上げはその日の内に入ってくるものですから、小金はあるわけです。
そんな調子ですから、朝起きると部屋の床で寝ていたり、向こうで知り合った人の事務所の椅子で目が覚めたりと、大活躍でした。
実際、ホテルの布団で寝たのは二日しかなかったというあたり、どんな調子だったのか想像していたけるでしょうか。
いや、ほんとにいいんですよ大阪。おいしいし、安いし。終電気にしないでいいし。


で、最終日。夕方片付けの後、そのままトラックに乗り関東へ帰る段取りでした。
当然、連日の放蕩と仕事で疲労はピークに達しているわけです。ですが、また8時間かけてトラックでえっちらおっちら帰るわけです。
おまけに、私は運転免許を持っていないので、その人は一人で運転して帰らなければなりません。そして、そういう場合私はせめて助手席で賑やかしをするべきなのでしょうが、絶対に寝てしまう自信がありました。まぁなんて気の毒。
せめて夕方まで休んでいてくれ、ということでその人は片付けまで半休を取ってもらっていたのですが、やってきて難しい顔をしているので「どうしたの」と尋ねると、
「体調悪い時に酒飲むと、まずいんだねぇ」
と大真面目な顔をしてぼそり。「あんたにとっての休みは、そっちなのか」とあきれを通り越して思わず感心しました。ビール一本が飲みきれなかったそうです。
まぁ、運転するのに飲み過ぎなくて良かったよ、とその場は思ったのですが、間違ってるなそれ。俺も疲れてたんだなぁ。


最後に大阪らしいもん食べて帰ろう、ということでお好み焼きを食べました。運転があるので、当然アルコールレスです、さすがに。
そして、容赦なく時間は迫って来て、再び私たちは車上の人となりました。
なにか、一週間ほどお寺の境内で本を売り、帰りに一杯やって巣に戻るということを繰り返していると、自分が昔からずっとそうやって暮らしていたんじゃないかという気になっていたのですが、現実はやはりそうでは無かったのですね。残念。
帰りの道は壮絶を極めていました。もうダメだー、となったらサービスエリアに入り休憩。それを繰り返し、結局14時間くらいかかったのかな。運転は本当に大変だったと思います。隣で俺は容赦なく寝てるし。
帰りは、中央道が工事とかなんとかで、長野の方を通る道路で帰りました。ちょっと道路の名前が思い出せないあたり、免許ない人って感じでしょ。


かなり標高が高いサービスエリアに入り、その人は「ちょっと寝るわ」と言ってハンドルに突っ伏しました。
私はしばらくの間寝ていたので元気になっており、車から降りて建物の中に入りました。
最近のサービスエリアは、明け方でも店員さんがいて、24時間軽食を取ることができるようになっています。偉い。
気温は暖房が必要なほどになっていました。あんまり寒いもので、私は思わずソフトクリームを買ってしまいました。(私はなぜか時々そういうことをしてしまうのです)
駐車場には、大型トラックが鈴なり。整然と並んでいて、なかなか壮観です。建物の中に人気は無かったので、みんな運転席で疲れを癒しているのでしょうか。大変だね。
空にはわずかに青色が混ざってきており、それを見て私は東の方角を知りました。そして真っ先に思ったのは、「京都も琵琶湖も彦根城
も通ったのに、どこにも下りなかったなぁ」ということ。姿は見えれど、近づくことはできない。高速道路は、ある種の牢獄なのですね。
そして、自分のトラックの方を見てみると、中では疲れきったように座席にもたれかかっています。私は申し訳ないなぁ、と思いながらも、「まぁどうにもなんないけどね」と口に出して少し笑いました。
そして、大阪にいた自分の姿を思い出しました。
朝巣から出て、まずきつねうどんを一杯食べ、ジャンジャン横丁を通り、四天王寺公園を出て、ドトールでコーヒーをテイクアウトして、お寺へと向かう自分。昨日までは当たり前だったのに、高速に乗ってしまえば、もうすごく前のことだったように思います。そういう自分は結構好きだったのですが、終わってしまえばたちまちの内に別人ですね。
そういえば私は、人の期待に応えてこない人間でした。こういう人間は、自分の自分に対する期待、にも応えないわけで、ようするにそれは「まぁこんなもんだべ」ということなのです。
世の中は、「思ったより良い」か「思ったより悪い」かで出来ていて、意外なことはそんなにたくさんはありません。少しはあるんでしょうけど、意外なことは、意外なだけあって苦手なのです。できれば、そういうものからは遠ざかって過ごしたい。ハプニングはほどほどに。大きな音や、強い光が苦手とか。まぁ、そういうこと。だんだんわけわからなくなってきましたね。そろそろ、やめときましょうか。家に帰れば振り出しに戻り、また「ドーラーえーもん助けてー」と未来の世界の猫型ロボットに泣き付くのび太くんということなのですが、いよいよ分かりづらいか。
私がトラックに戻っても、その人は目を覚ましませんでした。なので、暖房を入れたトラックの中で私も寝ることにしました。
案外、スッと眠れたのが意外でした。


目が覚めた時には、太陽はすっかり高くなっていました。再び私たちは車を走らせ(いや、私は座ってるだけですけど)、昼前にようやくゴールに到着。正直な話、首都高には軽く殺意を覚えましたね。
ゾンビのようになりながらも、荷物を降ろして解散となりました。その人は、夕方から仕事だとのこと。ほんとにご苦労さまです。
そして家に帰ってきて、私はまたいつもの自分に戻ったわけです。
でも、楽しかったな。すごく楽しかった。疲れたけれど、そんなことは大した問題じゃありません。
旅行の素晴らしいところは、自分の心の置き場所がほんの少しだけれど、広くなったような気がすることにあると思うのです。
行って、戻ってきた。まぁ、ただそれだけのことなんですけど。