花粉症だけど春を愛す

一年前の昨日あたりに、結構たくさんの人と会った。
なぜ、そのことを覚えているのかと言えば、それを知らせてくれた人がいたからで、「一年後だから集まりましょう」と声がかからなければ、結構たくさんの人と会ったことなど覚えていなかったろうし、一年という時間のことも気にも留めていなかったに違いない。
一年というと、なんとなくくぎりがいいような気がするけれど、それはたまたま季節のめぐりが大体365日で一周するから、ということで決まった数字にすぎないし、365という数字は5の倍数ではあるものの、現在の生活の中でもっとも重要な7では割り切れないなんとも中途半端な数字だ。
「一年間」だって、「一秒間だ」って同じ数字であるからには、その重要性は同じだと私などは思うのだが、そういう意見はなかなか素直にうなずいてはもらえない。なにも一年間ばかり優遇してやる必要はないと、あらぬ方向を見てぶつぶつと言ってはみるものの、そういう意見は他人の耳には届かないし、届いたとしても丁重に聞こえないふりをされるのが常である。
当たり前だけどさ。


新宿駅に集合すれば、見慣れた顔が所狭しと立っていた。
大学時代の、あーそのーなんというか、知り合い? の面々で集まったわけなのだが、自分のことを棚にあげれば、少々見飽きた感もある顔たちだ。
一年ぶりとなれば、本当はかなり久しぶりな人もいるはずなのだが、「見慣れる」というのは一年間たっても「見慣れっぱなし」であるというのはちょっと面白い発見だった。
集団になれば、なおさらということなのだろうと思う。
私の記憶力はあまり良くないので、一年前の昨日に集まった人間とどれくらい異同があったのかは分からなかった。
みんないたような気もするし、そうでもなかったような気もする。
自分は…… いたな。
こういう時は大抵いるし。


店はもつ鍋屋で、これが結構おいしかった。
日本酒をあおりながら雑談。
酒の肴で最高のものは、刺身でも塩でもなく、人間なのは間違いない。
目の前において突きまわす。
後輩というのは、こういうツマミの中でもかなり上等な方で、大真面目な顔をしながらからかったりするのが一番おいしい。
一年前のあの日も、私はしかめ面をしながら、心の中でどこか喜んで自分を切り回していただろう。
言葉ではなく、表情の変化や、声の高低が心を動かすのだ。
立派な言葉というのは、私の耳にはもう聞こえなくなってしまったから、なおさらそういうことが大事になったのだろう。
鍋の最後は中華麺を入れた。
これもおいしかった。


店を変わったりしながら、最後はカラオケボックスに到着した。
店に入るなり、二人のDTはお眠。私が先に寝た。
もう一人のDTもすぐに後を追ったと思うのだが、ヤツは寝る前にレミオロメンの「粉雪」を歌ったらしい。
私がふと眼を覚ますと明け方の四時。
起きていた二人は、どうぶつの森で遊んでいた。うらやましくなったので、私も参加。
その前に、せっかくカラオケに来たのだからと思い、レミオロメンの「粉雪」を入れた。
そこで、
「さっき歌ってたよ」
と言われて、少しおもしろかった。
「こなーゆきー えいえんをまえにー あまりにもろくー ああーああ」
結局、もう一人のDTの歌は一曲も聞かなかった。もしかしたら、二人とも「粉雪」しか歌わなかったのかもしれない。


始発の時間が来たので、外へ出た。
一緒に入った人が一人、行方不明になっていて帰ってこない。
店員さんに店の中を探してもらったのだが、いないようだ、とのことだった。
コートとカバンは残されていたので、途方にくれる私たち。
その人はかなり酔っ払っていたので、店のどこか空き部屋で寝ているのだろうと思っていたのだけれど。
携帯電話を鳴らすと、カバンの中で呼び出し音がする。思わずためいき。
カバンの中に財布がなく、三つある携帯電話の内二つがカバンにあったので、携帯電話は一台持っているのだろうと判断。
財布と携帯電話があれば、今の世の中大抵のことはどうにかなるはずなので。
結局、荷物を後輩が預かり解散ということにした。
帰りの電車の中では、太陽の気配はなく、まだ暗かった。
席に腰掛け、ぼんやりと窓の外を見ていた。寝て乗り過ごしたら困るな、などと考えながら。
やがて、電車は出発し車両が駅舎から出た。
ふと、気がついて衝撃を受けた。
明るい車内の外側は、真っ暗といって申し分ないほど暗かったのだが、その「暗さ」がいかにも「これから明るくなることを予感させる暗さ」だったからだ。
空がそういう色をすることがあることを、何十度と始発に乗ったことがあったのに全く気づいていなかった。
それは本当に本当に感動的な風景、というより色だったのだけれど、その発見は嬉しいという感じではなくて、どちらかといえばドッと疲れた。
「この期におよんでまだ……」
という感じ。もっと体力がある時に起こって欲しいのだ、奇跡は。


月曜日は大変で、それはなにが大変なのかというと、仕事が忙しいというよりは夜お酒を飲むから大変なのである。
夜、終電で家に帰った。朝は始発だったので、うまく一日の間におさまった感じだ。
その間に、行方不明だった人は無事帰宅したと連絡があった。コートが無かったから寒かった、ということで確かにそのとおりだったろうと思う。
まぁ、なんにせよ不測の事態がなくて良かった。本当に。
そして、昨日のことを思い返してみると、大学時代の飲み会をただ再現していたような気がする。
人は「過去」に出会えばたちどころに、その「過去」に戻っていく。
ということは、「過去」は思っていたよりずっとそばにあるのかもしれない。
帰れないほどの、過去でさえなければ。
さて、電話をしなければ。