「ミステリーは私の香水」(小泉喜美子・文化出版局)

ついでということは無いのですが、小泉喜美子をもう一冊読みました。
「ミステリーは私の香水」(小泉喜美子文化出版局)。
この前読んだ「ミステリー歳時記」と比べると、随分ととっちらかった本でした。


昭和55年に書かれた本なのですが、そこに登場する名前がずいぶんと懐かしくなっていることに驚きました。
作者本人は当然のことながら、生島治郎眉村卓都筑道夫などなど。
私にとってはかなり通った名前なのですが、現在の日本での知名度はかなり厳しいものがあるような気もします。
そりゃ、二十年もたてば一昔なわけですが、昭和の五十年代というのは私にとってはそんなに昔のような気がしないのですが……
うん、あんまり深く考えるのはよそう。
この本は、まず自分の交遊録から始まるわけですが、その人選が色川武大立川談志とかなり芸能色豊かです。
歌舞伎が好きで、それについての本を書いているのは知っていましたが、海外ミステリーの翻訳をしている人が、こういった人たちと知り合いだったのはちょっと意外。
まぁ、でも内藤陳と同棲していたというのだから、当たり前といえば当たり前のような気もします。
特に、「いつのまにか、小さんの頭をパシパシと叩いていることになっていた」というくだりは、むしょうにおかしかったです。


後半は、海外ミステリーについてのエッセイになります。
レイモンド・チャンドラーが好き、クレイグ・ライスが好き、本格物があまり好きじゃない、でもアガサ・クリスティは大したものだと思う。
どこかで読んだような話が、楽しく踊っています。
「文芸」というくらいですから、内容は同じようなものでいいのです。手を変え品を変え、いろいろな方法で楽しませてくれれば。
手品のように、その過程が大切。
大事なのは骨格ではなく、その上に張り付いている皮膚なのですよ。
なんか違うか。


この人の翻訳家としての仕事を、私はあんまり知らないわけですけど、エッセイは面白いですね。
ちょっと偏ったところがあるような気がしますが、そういう心の狭さみたいなものは、物を書くことを仕事にしているような人間にとっては、むしろ必要な部分なのだと思います。
小説は読みたくないけれど、ちょっと活字に目を滑らせたいときに他のものも読んでみましょう。