読書とかね 苦手なんだけどね

tanakadaishi2007-02-13

「ゲイルズバーグの春を愛す」(ジャック・フィニイ) 早川書房 福島正実
読み終えました。
本を閉じてため息。素晴らしかったです。
やたら良い感じのタイトルなので敬遠していたのですが、読まず嫌いは良くないですね。


この本には、表題作を含む10個の短編が収められていますが、どれもこれも全てが趣味に合いました。
ありきたりな題材を扱いながらファンタジックで、
明快な文体と美しい結末があって、
ノスタルジーと厭世に満ちていて、
箱の底でなにかがキラキラしている、
そんな感じの短編集です。


中で、一作あげるとすれば「コイン・コレクション」でしょうか。
ニューヨークで生活する一人の男。四年の月日がたって、夫婦の生活には若干の倦怠感がただよっています。
しかし、口喧嘩の最中に見つけた、ウッド・ウィルソンの25セント硬貨によって、男の運命は新たな展開を迎えることになります。
その「本当はありえないはずのコイン」が結ぶのは、「もしかしたらそうであったかもしれない」もう一つの人生。
マリオンではない妻、エンタープライズ社に勤務する自分。
別の世界に入り込んだ男は、そこで第二のハネムーンを発見します。
本来ならば、当然もっとひねった話になるはずを、するりと終わらせるのがフィニィ流。
「おい、こっちをむけ」の強烈なブラックユーモアや、「時に境界なし」のすばらしく印象的な結末も捨てがたいですけれど、個人的な嗜好でこれを取りたいと思います。


しかし、福島正実の仕事はいいですねぇ。
鮮やかで、生き生きとしていて。これくらい書けたら、楽しいだろうなぁ。
原文もこんなに良いのかと、疑ってしまいますね。
しかし、フィニイは「レベル3」も「盗まれた街」も読んだはずなんだけど、全く内容が思い出せないのはなんでなんだろうか。